「外国籍保護者のための小学校案内」発行の経緯について
本冊子は、2009年1月、市内2箇所で開催した「外国籍保護者のための小学校説明会」に向けて編集発行しました。この「小学校説明会」は、ピナットがこれまで取り組んできた「日本語教室(大人対象)」、「学習支援(こども対象)」「フィリピン・ボックス(国際理解教育)」のそれぞれの活動の中で考えさせられてきたことが、一つにつながって開催に至ったと言えると思います。小学校説明会の開催および冊子の発行を企画した背景をご紹介します。
■ピナット日本語教室(大人対象)で
日本語教室で学ぶ人の多くは子育て中のお母さんたち。学校のお便りなどを「教えて」と教室に持ってきます。
「わからないことがあれば、なんでも聞いてね」と、同じように子育て中の人が多い教室スタッフたちは思います。一方で外国籍のお母さんたちは、「わかっていないことに気づいていない」ことが少なくないようです。たとえば子どもが「忘れものが多い」と叱られてばかりいるというAさんは、親が毎日「連絡帳」を見て準備を手伝わないといけない、ということを知りませんでした。知らないからやらないし、誰かに「教えて」と尋ねることもできません。Aさんは「私は外国人で、学校のことがわからなくて当然なのに、誰もサポートしてくれない」と悩んでいましたが、まわりの人も外国籍保護者は何がわからないのかが想像できず、支援したくてもできないという面もあるようです。
そこで、そもそも日本の小学校が保護者にどのような役割を求めているかを知ってもらうことが必要だと思うようになりました。
■ピナット子ども学習支援(小中学生対象)で
たとえばフィリピンでは、子どもの宿題を親が手伝うことはあまりないそうです。学校の勉強は先生の責任で、親は家の手伝いや行儀など生活面を教えるという役割分担が明確のようです。
一方、日本では、子どもが低学年の間は、毎日のようにひらがなや計算の練習、国語の音読の宿題などが出て、親がチェックすることが求められます。外国籍の保護者の中には、そういうことを知らず、家庭学習をまったくさせず、その結果、子どもは日々の練習の蓄積がなく、学習に遅れが出てしまいます。さらにその結果、自尊感情や学習意欲が低下してしまう可能性もあります。
低学年の時からの家庭学習の必要性を外国籍保護者に伝えることができていたら、高学年になって勉強が大幅に遅れてからピナットに支援を求めてくることもないのではないか、と考えるようになりました。
■フィリピン・ボックス(国際理解教育)の研修で
「フィリピン・ボックス」の貸し出しを始めてから、年に数回、教員対象に「フィリピン・ボックス」を使ってフィリピンの文化や歴史を紹介する機会があるのですが、そこで出会った教員たちから「フィリピン人保護者は子どもの教育に無関心」という声をよく聞きます。その理由が「子どもが忘れ物が多い」「保護者会に来ない」「連絡がつかない」など、保護者の日本語の問題が原因なのではないかと思われるものもあります。日常会話がペラペラだからと言って、学校からのお便りや保護者会の難しい話が理解できるとは限りません。
またフィリピンの人は一般的に初対面でも気さくに声をかけあい、また人前で批判されるのは屈辱的だと感じるようです。誰も声をかけてくれない保護者会や、先生から一方的に子どもについて小言を言われる学校は敷居が高いようです。
教員が、保護者の日本語能力や思いを知らず、「子どもの教育に無関心」と決めつけてしまうのは残念なことと思います。教員に対して外国籍保護者への理解を求めると同時に、外国籍保護者に対しても、教員から誤解を受けないためにも積極的に担任とのコミュニケーションを図るよう伝え、またそのために必要な支援を提供していく必要を感じるようになりました。
■9月~1月の怒涛の準備4カ月間
このように、それぞれの活動での思いがまとまって、「小学校説明会開催」という具体的な目標につながり、2008年春、「社団法人生命保険協会」に助成金を申請してみたのでした。8月に助成金が決定し、9月からいよいよ準備開始。
まず、日本語教室で学ぶ外国籍保護者や、教員の聞き取りを行い、それをもとに日本語教室のスタッフが中心となって資料(冊子)を作成しました。
さらに日本語教室スタッフ、学習者、事務局インターン、学童保育げんこつ組のメンバーなど様々な人が協力して4言語(中、韓、英、比)に翻訳、写真やイラスト入りの冊子が説明会直前に完成しました。
また三鷹国際交流協会(MISHOP)から共催の申し出があり、教育委員会との連絡調整などはMISHOPが担ってくれました。
■1月に2会場で説明会を開催
小学校説明会は1/24(土)午前「三鷹国際交流協会」(MISHOP)」で、1/31(土)午前、「教育センター」で2回開催しました。説明会には、2回合わせて計16名(14世帯)が参加。言語別にグループ分けし、それぞれのグループ内で冊子や学用品の実物を使って「先輩保護者」が説明しました。
言語別では中国語がもっとも多く6名、ついでタガログ語4名、韓国・朝鮮語と英語が2名ずつ、やさしい日本語グループ2名(タイ、日本人配偶者)でした。中には子どもはまだ小さいけれど関心があって参加したという人や、逆に上の子はもう中学生という方も。
これから小学校に入るお母さんたちからは「子どもがいじめられないか心配」「入学前にひらがなを教えていないが大丈夫か?」などの心配が、またすでに小学校に通っている親からは「毎日の持ち物がよくわからない、どうしたら?」「プリントを簡単な日本語に直してもらえないだろうか」など日本語ができないことへの不安が寄せられ、「先輩保護者」が自分の体験を話したり、当日協力してくださった現役教員がアドバイスしてまわりました。
■今後について
説明会後、ピナット日本語教室に参加するようになった人や、子どもの学習支援の相談を寄せてきた人もいました。また、説明会に参加できなかった人からも説明会のチラシを見て「冊子が欲しい」と連絡があり、その際、学童保育所への申し込み方法の相談も受けました。
このように今回の説明会開催を機に知り合えた地域の外国籍保護者の人たちと継続的に関わりながら、そのつど一緒に問題解決に取り組めればと思います。また今後も定期的に交流会・相談会などを企画し、地域の外国籍保護者の輪を少しずつひろげていきたいと思っています。